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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)678号 判決

控訴人

川田博光

川田家郷

川田国雄

右三名訴訟代理人

少林蝶一

外一名

被控訴人

右代表者法務大臣

瀬戸山三男

右訴訟代理人

薄津芳

右指定代理人

山田雅夫

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

〈前略〉

控訴人の当審における主張について

控訴人は当審において、本件における具体的事実関係を挙示して、右事実関係のもとにおいては民法七二四条後段の「不法行為ノ時」は、本件土地の取得時効の完成時あるいは控訴人が違法行為を認識した時もしくは被控訴人の売渡により組合が本件土地について所有権保存登記を経由した日と解するのが妥当であつて、被控訴人が組合に本件土地の売渡処分をした日と解すべきではない、との主張をしている。

そこで考えるに、先ず民法七二四条後段の規定は除斥期間を定めたものと解すべきである。右規定の趣旨が、同条前段の三年の時効が損害及び加害者の認識という被害者の主観的事情のいかんによつて左右される浮動的なものであることに鑑み、これを制限して被害者の認識のいかんを問わず画一的にできるだけ速やかに法律関係の確定をはかろうとするにあるものと解せられること及び二〇年の期間は通常の消滅時効の期間を倍加するもので、実際上もかなり長期であり、その上さらに中断を認めて期間の伸長を許す結果となることは、右の期間を定めた右の趣旨に合致しないと考えられること等からすれば、除斥期間と解するのが合理的であつて、時効と解するのは妥当ではないからである。

そして、右規定の以上の趣旨、性質に鑑みると、右規定の「不法行為ノ時」というのは、損害発生の原因をなす加害行為がなされた時をいい、さらに、右の「加害行為がなされた時」というのは、字義どおり加害行為が事実上なされた時と解すべきであり、当該加害行為のなされたことが被害者に認識された時、あるいは認識され得るような外部的表象を備えるに至つた時と解すべきものではない。

もつとも、「不法行為ノ時」をもつて損害発生の原因をなす加害行為がなされた時と解すると、加害行為の時と当該行為による損害発生の時との間に時間的な間隔がある場合には、損害賠償請求権が未だ発生していないうちに二〇年の期間が進行を開始することとなるけれども、右の期間を前述のように除斥期間と解すれば、このことをもつてあながち不合理ということはできないものというべきである。

そこで、以上の見地に立つて、前記引用の原判決の認定にかかる事実関係についてみると、原判決の説示するとおり、控訴人らの訴求する本件損害についての発生原因たる加害行為がなされた時は、遅くとも群馬県知事が本件土地を組合に対し売渡処分をした昭和三〇年三月一日とみるべきものである(なお、組合に対する登記を経由することが右加害行為の要件をなすものでないことはいうまでもない。)から、除斥期間は同日から起算すべきものといわなければならない。

控訴人は、本件について種々特殊事情があるとして前記のごとき主張をしているのであるけれども、その主張は帰するところ以上の説示と反する見解に立脚するものというよりほかなく、採用のかぎりではない。〈以下、省略〉

(安岡満彦 内藤正久 堂薗守正)

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